
前回の記事では、カーディストリーのムーブを評価する際のパフォーマンス(タッチ)面について解説しました。
今回はムーブ自体の作りを「アイディア」と「デザイン」の2つに分けて説明していきたいと思います。
カーディストリーのオリジナルムーブは非常に芸術性が高く、今回解説する基準がすべてではありません。
あくまでもThe54Clubとしての見解やコンテストの評価基準として参考にしてください。
アイディアについて
アイディアはムーブのテーマや特徴など、そのムーブが何を伝えたいのかと言う部分になります。
基本的にはそのムーブが持つ、過去のどのムーブにもない「新規性」がアイディアとなります。
ただ、既存技の組み合わせでも十分アイディアと言えると思います。
オープナーやクローザーが完成してなくても「こう言うアイディアがあるんですけど、、、」とやりとりできるのは、ムーブのテーマ・アイデンティティがアイディア部分にあるからですね。
例えばワームでは、4枚のカクカクした動きからのディスプレイの流れがアイディア部分に当たりますね。
オープナーやクローザーがちょっと違くても、この部分が含まれていれば皆さんワームだと認識するはずです。

また、スケーターカットはキックフリップにアイディアの中心があるので、皆さん多種多様なクローザーを行っています。
アイディアはそれぞれの感性や文脈の理解によって評価が変わってくると思います。
ただ、こう言う要素があるアイディアは評価されやすいよ、と言う物を紹介していきます。
革新性
アイディアがいかに過去のムーブとはかけ離れた発想力があるかどうか。
よく見たことあるようなアイディアを少し捻ったものよりも、誰も思いつかなかった完全な新しい動きや形を見せられると高く評価されます。
YuyaさんがEgoismで発表したスーパーマリオはここ数年でもトップのアイディア力があると思います。CC2024でもたくさんの海外カーディストを驚かせていました。

新規性を高めるには、まず市場にどのようなムーブがあってどのような仕組みで動いているか、大量のインプットが必要になります。
「無から出るアイディアはない」とよく言われますが、インプットを増やすことによってムーブとムーブを掛け合わせやすくなります。
また、カーディストリー以外のものからインスピレーションを受けたときにも、メカニクスの引き出しが多いことで、それを再現できる可能性が高くなります。
有効性
アイディアがいかに新しくても、見ている人に響かないものだとあまり意味を持ちません。
例えば、ムーブの途中でクレヨンでカードの色を塗り替えると言うアイディアを作ったとしましょう。確かに斬新で全く新しい発想ではありますが、見ている人はポカンとしてしまうでしょうね。見ている人の感情を動かすような価値をしっかりとアイディアに与えましょう。
アイディアの新しさがいかにカーディストリーの文脈において、思いつくのが難しかったか、すごい発想なのかを理解してもらえないといいムーブとは言えないでしょう。
ただ50年後のカーディストリー界でクレヨンムーブが大流行りして評価を得る可能性はなきにしもあらずです。
効果的なアイディアを作るには、いかに見ている人側の目線に立てるかが大事になってきます。自分でよくわからない場合や積極的に周りのカーディストにアドバイスや感想を求める習慣をつけるといいと思います。
文脈性(トレンドやストーリー)
先ほど少し触れましたが、カーディストリーのアイディアの有効性はその時代によって変わります。
ファッションのトレンドが移り変わるように、
15年前はパンドラのようなクラシックなフロウを見せるムーブ、
10年前はXCMやアイソレーションなどのパフォーマンス性のあるムーブ、
5年前はコンテスト映えする短くてインパクトのあるムーブ、
そして現在はトレンドが一周して実用性の高いムーブが再評価されてきています。
また、自分のムーブのバリエーションを行ったり、他人のムーブのサンプリングを行うなど、元ネタを知っている人に深く刺さるアイディアなどもあります。
こちらは僕のTiktokと言う技ですが、2018年に発表してから2023年までに5つほどのバリエーションを作ってきました。
このように10秒のムーブの中に数年の時間の流れを感じさせることができるのがバリエーションの良さですね。

また、自分のスタイルを確立してそれに沿ったアイディアを発表すると高く評価されるのは、文脈性が高いからですね。
全く同じスピン系の技を無名のカーディストが行うのとコンさんが発表するのでは、どうしても後者の方が印象が良くなってしまいます。
この部分はいかに普段から最新のカーディストリーに触れているかが大事になってきます。
ただ意識しすぎると疲弊してしまうと思うので、あくまでも自分が楽しめる範囲でトレンドを追えるといいですね。
あえてトレンドを全否定するロックなムーブを発表しても受けたりするので、頭でっかちにならず自由な発想を残しておくのも大事ですね。
次にデザインです。
デザインについて
個人的にはアイディアよりも大事だと思いますが、人によって意見が分かれるところではあります。
デザインはムーブの全体的な構成を指します。優れたアイディアでも、デザインが悪ければ魅力が伝わりません。
良いアイディアが浮かんだら、その何倍もデザインに時間をかけて、いかにアイディアを適切に伝えるかに注力する必要があります。
一貫性
オープナーからクローザーまでアイディアに沿った一貫性が求められます。
例えばトバイアスのフェイズドは最初から最後までパケットの回転をテーマに、それ以外の要素を足さずに一貫しています。
一貫性のあるムーブは、特徴を一言で表せると思います。他人に自分のムーブを手を使わずに説明できるか考えてみましょう。
手軽に一貫性を持たすことができるテクニックとして、レペティションやランニングなどがあります。

レペティションー似た現象を繰り返してみせるテクニック

ランニングー繰り返し行うことのできるムーブ
ただ、現象が一回しかなくても、周りに余計な要素を足さないだけで十分な一貫性を持たせることができます。
オープナーやクローザーが冗長になってしまうと一貫性が崩れる要因となるので、ぱぱっとセットして、ささっと閉じましょう。
ビジュアル
どんなに斬新で複雑な動きやグリップを使っていたとしても、ごちゃついていて視覚的に分かりにくければ評価されにくいです。
理想を言えば、小さい手の動きで大きなカードの動きを表現することが大事です。
フロウやフレアで印象を変えやすい設計をするのもいいデザインの一要素です。
クローグリップは手軽にパケットの広がりを演出できるので様々なカーディストに愛用されていますね。

*クローグリップ
視覚的にバランスが良いか、シンメトリーがあるかも大事になってきます。
カメラで撮影しながらパケットを足したり引いたりして調整しましょう。
デッドパケット(動いていないパケット)があると周りが動いている中そこに目が注目してしまいがちです。
理想を言えば全てのパケットを活用して動かすことができるといいですが、グリップごと動かしてしまうと言う力技もあります。
実用性、ミニマリズム
この要素がムーブ作りにおいて一番難しいと思います。一流のカーディストは上の二つを意識しますが、最高峰のカーディストはみんな必ず共通してこの部分を抑えています。
実用性は、いかにそのムーブを簡単に行えるかと言うことです。
カーディストリーをあまり知らない人だと難しい技の方がすごいんじゃないの?と思うかもしれませんが、簡単に誰でも再現できて、かつアイディアを妥協しないムーブが最強なんです。
言葉で説明するよりも実態を見てもらった方が簡単で、実用性が高いムーブほど他人にやってもらいやすく、世界に浸透していきます。
シビルやワーム、フェイズドなどシンプルに見える技こそみんながやりたがり、やってすぐ達成できて楽しく、見ている人にも印象のいい、伝説級の技となっています。
実用性の高いムーブの特徴として、ミニマリズムがあげられます。
トバイアス、ニコライ、オリバーを筆頭とするデニッシュカーディストリーはミニマリズムの真骨頂です。
ムーブの無駄な要素を徹底的に排除してアイディアの核心を抽出していく作業が必要となります。

これがマジで難しい
日本のカーディストのKiichiさんはまさにミニマリズムを極めていて、彼が作ったムーブは世界中の人にインスピレーションを与えています。
実用的で再現性が高く、ミニマルゆえに拡張性が高いと言うことです。

Kiichiさんが世界のトップたちが認めるワールドワイドと言われる所以です。
まとめ
長くなってしまいましたが、54クラブのコンテストでは以下の3点(9点)に注目しながら技を評価していきます。
もちろん、この方にハマらなくてもいいムーブは全然作れるので自信のある人は気にせずそのまま制作活動を行なってください。
ただムーブ作り初心者の方や、改めてムーブ作りを見直したいかたはぜひこちらのリストを参考にしてくれると幸いです。

ムーブの評価軸のトレードオフの関係についての記事はこちら↓